
企業のブランドイメージを形作る上で、フォントの選定は欠かせない要素のひとつです。特に、企業全体で統一して使用する「コーポレートフォント」は、ブランドの視認性や信頼性を高め、社内外のコミュニケーションをスムーズにする重要な役割を果たしますが、様々なフォントがある中で「どのフォントを選べば良いのか?」「ブランドのイメージに合ったフォントとは?」と悩む企業のご担当者の方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、コーポレートフォントを決める際に欠かせないVI(ビジュアル・アイデンティティ)設計の重要性を解説しながら、実際にコーポレートフォントを定めている企業の事例をご紹介します。また、コーポレートフォントの選定ポイントについてもご紹介いたします。
◆目次
1.コーポレートフォントとは?なぜVI設計が必要なのか
コーポレートフォントとは、企業のブランドイメージを統一し、視覚的な一貫性を持たせるために指定された書体のことです。
企業がブランドの統一感を持たせるために「コーポレートフォント」を設定することは、企業の「コーポレート・アイデンティティ(CI)」や「ビジュアル・アイデンティティ(VI)」を確立する上で非常に重要です。フォントは、単なる文字のデザインではなく、企業の個性やメッセージを伝える大切な要素の一つとして機能し、ブランドロゴやブランドカラーと同様に、コーポレートフォントを適切に選定・設計することで、企業のブランドイメージを強化し、視覚的な統一感を生み出すことができます。
VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは?
VI(Visual Identity)は、企業の「ブランドアイデンティティ(Brand Identity)」を視覚的に表現したものです。
ブランドの一貫性を保つためにデザイン要素(ロゴデザインやブランドカラー、デザインなど)を統一し、ブランドガイドラインとしてルールを定める企業は多くあります。
その中には、「どのフォントを使用するか」というコーポレートフォントについての取り決めも、VI設計においては重要な要素の一つになっています。
なぜなら、フォントの選定次第で、企業の印象が大きく左右されるからです。
そのため、VI設計を行う際はフォントの選定も、ブランドイメージに合っているかなど踏まえて検討することが大切です。
たとえば、信頼感や格式を重視する場合は、落ち着いた「セリフ体(明朝体)」を。
親しみやすさや柔軟性を伝えたい場合は、シンプルで丸みのある「サンセリフ体(ゴシック体)」を選ぶことで、視覚的に伝えたい価値観やブランドイメージを表現することができます。
2.コーポレートフォントを設計すべき3つのメリット
コーポレートフォントを適切に設計・選定することで、企業にとって以下のようなメリットが生まれます。今回は3つのメリットをご紹介します。
メリット1:ブランドイメージが浸透しやすい
企業のロゴ、ウェブサイト、パンフレット、プレゼン資料などの様々なコミュニケーションツールに統一感を持たせることができます。統一されたフォントを使用することで、洗練された印象を持たせることができます。
メリット2:効果的に伝わるようになる
視認性・可読性に優れたフォントを使用すると、情報伝達がスムーズになることで、読みやすさが向上し、伝えたい内容がより効果的に伝わるようになります。
そのため、社内外の資料やプレゼンテーションや、デジタルメディアや印刷物で見やすさを考慮したフォント選びをすることも選択肢の一つです。
視認性・可読性に優れたフォントでおすすめなのは、「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」です。
UDフォントについてご興味をお持ちの方は以下の記事をご覧ください。
▼ユニバーサルデザインフォントに関する記事はこちら
今、ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)が求められている理由とは?誰もが見やすい文字について解説
メリット3:企業イメージが定着しやすくなる
フォントの持つ特徴を活かすことで、企業の価値観やコンセプトを視覚的に表現できます。例えば、堅実で信頼感のある印象を与えたい場合は「落ち着いたフォント」を、革新性や先進性を打ち出したい場合は「モダンなフォント」を採用するといった工夫を行うようにしましょう。
また、コーポレートフォントは、単なるデザインの一部ではなく、企業のブランディング戦略の一環として重要な役割を果たします。
適切なフォントを選定・活用することで、ブランド価値を高め、社内外における企業のメッセージをより効果的に伝えることができるため、戦略的な選定が大切です。
3.お悩み別!コーポレートフォントの選定例
今回は、ホープンで取り扱っているフォントの一つであるモリサワフォントを例に、選定のポイントをご紹介します。
人によりフォントに対して持つ印象が変わりますので、以下の情報は、デザインを決める上での参考情報としてご認識頂けましたら幸いです。
格式・信頼感を印象付けたい→「明朝体」がおすすめ
企業のブランドイメージを確立する上で、「格式の高さ」や「信頼感」を演出したい場合には、明朝体がおすすめです。
明朝体は、縦線が太く横線が細い繊細なデザインが特徴で、伝統的かつ上品な印象を与えます。
特に、金融機関や法律関係、出版業界など、権威性や高級感を求められる業種で広く使用されています。以下は、業界ごとにおすすめの明朝体フォントです。
●おすすめフォント①:リュウミン
金融機関・新聞・法律関係の企業でよく使われる上品で格式高いフォントです
●おすすめフォント②:秀英明朝
出版・高級ブランド向け、伝統と品格を感じさせるデザインです
●おすすめフォント③:A1明朝
行政機関・教育関連に適した、視認性と高級感を兼ね備えたフォントです
汎用性が高く視認性を良くしたい→「ゴシック体」がおすすめ
視認性の高さや汎用性のあるデザインを求める場合は、ゴシック体のフォントがおすすめです。
ゴシック体は、縦横の線の太さが均一で、可読性に優れているため、Webサイトや広告、プレゼン資料など幅広い用途で使用できます。
ゴシック体は力強さや親しみやすさを演出することができるため、企業の信頼感を損なうことなく、モダンで洗練された印象を与えることができます。
特に、シンプルなデザインやスタイリッシュなブランドイメージを重視する企業は、ゴシック体から選定されるのも選択肢の一つです。
以下に、用途やブランドの方向性に応じたおすすめのゴシック体フォントをご紹介します。
●おすすめフォント①:新ゴ
大手企業・コーポレートサイト・広告に多用される、バランスの取れたフォントです
●おすすめフォント②:秀英角ゴシック金
上品さと可読性を兼ね備えた、洗練されたデザイン向けのフォントです。
品のある印象と落ち着いた雰囲気から、高級ブランド・百貨店など上質で知的な印象を与えたい場合におすすめです。
親しみやすさを演出したい→「丸ゴシック体」がおすすめ
企業のブランドイメージを「柔らかく」「親しみやすい」ものにしたい場合、丸ゴシック体のフォントがおすすめです。
角のない丸みを帯びたデザインは、温かみや優しさを感じさせ、フレンドリーな印象を与えます。そのため、カジュアルなブランドや子ども向けのサービス、飲食店、教育・医療関連など、安心感や親しみを大切にする企業におすすめです。丸ゴシック体は、堅苦しすぎず、それでいて清潔感や上品さを保つことができるのも魅力の一つです。
カジュアルすぎない落ち着いた印象を求める場合にも、適切なフォント選びをすることで、ブランドの世界観をうまく表現することができます。
以下に、用途に応じた、おすすめの丸ゴシック体フォントをご紹介します。
●おすすめフォント①:じゅん
カジュアルブランドや飲食店のVI設計に適した柔らかく優しい印象のフォントです
●おすすめフォント②:秀英丸ゴシック
老舗ブランドや、医療・教育関係など、堅苦しすぎず、でもカジュアルすぎないデザインを求める場合におすすめのフォントです
様々な方に読みやすいデザインにしたい→「UDフォント」がおすすめ
ご高齢の方や視覚にハンディキャップのある方など、様々な方にとって読みやすいデザインを求める場合は、「ユニバーサルデザインフォント」がおすすめです。
ユニバーサルデザインフォントは、視認性・可読性に優れ、長時間読んでも疲れにくいよう設計されています。
そのため、公共機関や教育機関、医療業界など、幅広い人々が利用する場面で特に活用されています。
以下に、用途別におすすめの「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」をご紹介します。
●「新ゴ」と「UD新ゴ」の違い
「新ゴ」をベースに視認性や可読性をさらに高めたユニバーサルデザインフォントが、「UD新ゴ(UD新ゴシック)」です。
文字の空間を広めにとり、線の太さや文字のバランスを調整することで、誰にとっても読みやすいデザインとなっています。
実際に比較してみると、同じ「書」の文字でも、UD新ゴでは横画が太めで、角がはっきりと見えるように設計されており、視認性が向上していることがわかります。(上図参照)
▼「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」に関してご興味をお持ちの方は以下の記事をご覧ください。
今、ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)が求められている理由とは?誰もが見やすい文字について解説
●おすすめフォント①:UD新ゴ
老舗ブランドや、医療・教育関係など、堅苦しすぎず、でもカジュアルすぎないデザインを求める場合におすすめのフォントです
「UD新ゴ」は、公共機関や医療現場など幅広い人々が利用する環境に最適なフォントとして活用されています。
●おすすめフォント②:UD黎ミン
教育機関・医療業界での活用が多い、可読性の高いユニバーサルデザインの明朝体です
4.(参考)独自のコーポレートフォントを定めている企業の事例
多くの企業で、VI(ビジュアル・アイデンティティ)の中で、「コーポレートフォント」を定め、企業のあらゆる場面で統一されたデザインを実現しています。コーポレートフォントを統一することで、ブランドイメージの一貫性を保ち、視覚的な印象を強化することができます。業界ごとにフォントの選定基準や傾向が異なり、それぞれのブランド戦略に基づいたフォントが採用されていますが、ブランディング戦略として独自のブランドを推進するため、オリジナルでコーポレートフォントを制作している事例もあります。
●業界別のコーポレートフォントの傾向
大手メーカーや金融機関
大手メーカーや金融機関では、信頼感や権威性を重視するために、明朝体やゴシック体を使い分ける傾向があります。
明朝体は上品で落ち着いた印象を与え、特に伝統や歴史のある企業でよく使用されます。
一方、ゴシック体は力強さや安定感を表現するため、テクノロジー関連やモダンな印象を与えたい企業で採用されることが多くなっています。
●事例①トヨタ自動車株式会社:「Toyota Type」
トヨタは、自社ブランドの統一感を高めるために「Toyota Type」というオリジナルフォントを活用し、広告やウェブサイト、カタログなど幅広いメディアで使用しています。
このフォントは、力強さと信頼感を兼ね備えたデザインになっており、トヨタブランドの世界観を視覚的に表現しています。
IT・スタートアップ企業
IT企業やスタートアップでは、シンプルで装飾のない角ゴシック系のフォントを採用し、洗練された現代的な印象を打ち出す傾向があります。
視認性が高く、デジタルデバイス上でも読みやすいフォントが好まれます。
また、最先端の技術や革新性を表現するために、無駄を省いたミニマルなデザインのフォントが選ばれることが多いのが特徴です。
●事例②楽天グループ株式会社:「Rakuten Sans JP」
楽天グループ株式会社は、日本語コーポレートフォント「Rakuten Sans JP」を共同開発し、楽天のコーポレートサイトや各種アプリ、IR資料などで広く活用されています。
このコーポレートフォントは、既存の欧文フォント「Rakuten Sans」との親和性を踏まえて、合うようにデザインされています。
「UD新ゴNT」をベースフォントとし、欧文部分を「Rakuten Sans」に合わせ、全てのかな文字に独自のデザインを施すことで、オリジナリティと読みやすさを追求したデザインにされています。
▼参考情報
モリサワ 楽天の日本語コーポレートフォントを共同開発、コーポレートサイトに実装
●事例③株式会社kubell:「Chatwork Sans」
株式会社kubell(旧Chatwork株式会社)は、リブランディングの一環として、コーポレートフォント「Chatwork Sans」を共同開発し、公式ウェブサイトや各種制作物に広く使用されており、ブランドイメージの統一と社内外のコミュニケーションの質を高める役割を果たしています。
この「Chatwork Sans」を制作する前は、「UD新ゴNT Pro」などを活用していたが、使用するシーンによっては、必ずしもベストではないという声もあったため、フォントの変更も含めて検証しオリジナルで制作することとなったようです。
▼参考情報
株式会社kubell(旧Chatwork株式会社)10周年を機に実施したリブランディングオリジナルフォントでChatworkらしさを表現
5.コーポレートフォントをVI設計に組み込みませんか?
今回は、フォントについてご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。企業のブランド価値を高め、統一感のあるVI(ビジュアル・アイデンティティ)を実現するため、コーポレートフォントとしてフォントを選定し統一しておくと、ブランディング推進にも有効なのでおすすめです。
当社ホープンではブランディングの一環で「UD新ゴ」を、ブランドブックの制作や、印刷・Web・動画など様々な場面で使用してブランド推進を行っておりますが、お客様のVIを踏まえたコーポレートブランディング推進のための、カタログ製作やブランドブックなどの紙媒体から、ブランドムービーなどの動画制作まで幅広くご提案が可能です。
ブランディング推進に関する、コミュニケーションツールの制作など、コンテンツ制作に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
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